津久井やまゆり園で障害者を殺害する大きな事件が発生しましたが、その事件を一つの契機として障害者施設の虐待について考えるセミナーが開かれます。障害児者を護る立場からは本質的に大事な論点です。
【日時】令和2年11月29日(日)13:30~16:30
【場所】相模原市・杜のホールはしもと・多目的室
【テーマ】誰が津久井やまゆり園事件を生んだのか ほか
【参加した所感】
やまゆり園セミナーには、当会から役員が2名参加して参りました。
いろいろと話がありましたが、國學院大學の佐藤彰一教授のお話が、冷静で理に適った分析をしていたと感じられました。佐藤教授は、2013年に千葉で発生した袖ケ浦施設での事件を合わせて分析されていました。
ごく簡単にまとめますと、
・入所施設の事件は、まず、不適切支援(←まだギリギリ支援のうち。過剰支援、手抜き支援など)から始まって、支援者の視野狭窄に移行し、障害者の人間性を無視した虐待へと繋がってしまう。
・例えば、身体拘束には3要素(切迫性and非代替性and一過性)がすべて満たされている必要があるが、袖ケ浦でもやまゆり園でも、視野狭窄のため、その一つでも満たしていれば身体拘束をするなど、過度に管理型の支援をしていた。
・元々やまゆり園の職員だった犯人は、園におけるこうした支援実態に慣れてしまい、次第に障害者の人間性を無視するようになり、事件を起こした。
・権利擁護の観点からは、以下の表のような分類が可能(当方の要約、加筆あり)。多くの入所施設では管理型権利擁護。自立型を目指すことが重要。
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自立型権利擁護 |
管理型権利擁護 |
やまゆり犯人 |
障害者の能力 |
障害者に能力があるとの推定 |
障害者に能力があるとの推定 |
障害者に能力はないとの推定 |
決定形態 |
障害者による自己決定を支援 |
支援者による代行決定 |
他者が意思決定 |
利益 |
障害者本人の主観的利益優先 |
本人の主観的利益と客観的利益が混在 |
社会的利益を優先
(障害者を人間とみない視野狭窄) |
価値 |
ケア・エンパワー
(社会参加、語り紡ぐ) |
ケア(安全重視と正義(功利主義)) |
独断的正義 |
人間観 |
障害者も相互依存し合う主体 |
障害者は、保護の対象(客体) |
障害者(人間)は手段
(利用価値なければ抹殺) |
また、毎日新聞の上東記者も鋭い指摘をされていました。こちらも簡単にまとめると以下のとおり。
・やまゆり園と同規模の施設にアンケート調査したところ、施設の入所者は高齢化、4割以上が25年以上施設暮らし、地域に受け受け皿ない、家族の希望が多いなどの事情がある。
・やまゆり園は強度行動障害のある人たちの収容施設。東京オリンピックの頃、障害者を終生保護する画期的な施設とされた。その後、ヨーロッパでも大規模施設は人権侵害が発覚し、80年代にいわゆるノーマライゼーションの考え方が普及し、89年に日本でもGHが制度化。地域への移行が始まった。しかし、実際には、地域における受け入れ反対機運が強く、なかなか進んでいない。全国で障害者施設運動反対68件。
・入所施設では、今でも不審な「事故」が多い。障害者施設での虐待事件は増え続けている。全国で通報2605件、認定592件、被害者777人。被害者の7割が知的障害。
・地域にも一般にも差別意識がある。メディアも例外ではなく、人権侵害あっても報道しないとか、論点をずらした報道することがある。これは、人権侵害に加担することになる。
・何が「敵」か。それは社会の「無関心」。